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お役立ち情報コラム

今月の特集 (2019年2月)      

地方創生のヒント

多古町の農家の庭先を歩いて巡る食のお祭り~
 

 イタリアとの交流から生まれたユニークな村祭りの代表格といえば、千葉県多古町で毎年11月中旬に開催されている「BRAぶら しんのみ祭り」です。

 長くて、キャッチーな命名とはお世辞にも言えませんが、その名の由来は、スローフード協会の本部があるイタリア・ピエモンテ州ブラ(BRA)にあります。

 主催は、2017年で30周年を迎えた「多古町旬の味産直センター」で、約130人の生産者と生協などを通じて全国の約1万人の消費者をつないでいる農家の直売組合です。多古町は米どころでもあり、甘いサツマイモやニンジンの産地として知られる豊かな農村地帯です。

 代表の高橋清さんたちは、20019月末、ブラの村祭りを視察。この日ばかりは個人の屋敷の庭や学校などが開放され、町の入り口でチケットを買うと、胸からワイングラスを下げ、町を歩いて巡りながら、伝統料理を楽しむ「コルティーレ・ア・コルティーレ」(中庭巡りの意・現在は10月開催)というユニークな祭りに、大いに刺激を受けました。そして同年11月から16年間、この祭りを地元で育て、根付かせてきました。

 JR成田駅・京成成田駅から送迎バスで約20分。参加者は参加費、大人1500円、子ども1000円を払うと、入り口で首に掛けるひも付きの竹筒のコップを渡され、手作りの甘酒を振る舞われます。カラー絵地図を手に、農家の庭先や神社などを巡って農家の手料理に手を伸ばします。秋の収穫祭を兼ねて、都会の消費者に、普段、届けている農産物の産地に足を運んでもらいながら、交流しようという試みです。

 秋祭りが集中する時期で長く機会を逸していましたが、昨年初めて、その祭りに参加できました。農家も慣れたもので、足りないなどというハプニングもなく、ラッカセイの甘煮、黒米の甘酒、大根おろしを絡めたつきたての餅で満足していたら、その先にはまだまだ野菜の天ぷらやおでん、赤飯が続々と控えていました。

 さらに、イタリア人の友人と歩いたおかげで見えたのは、農村の文化交流の潜在力でした。100年を経た古民家の風情や神社での七五三の行事食に友人は魅了されっ放しでしたが、お抹茶を振る舞う「佐藤家」で、3人がかりで着物の着付け体験までできたのです。そうした全てを、大木の見下ろす緑の空間で、澄んだ空気を吸いながら楽しめるのは、農村だけの醍醐味(だいごみ)です。

 お昼過ぎ、売店が並ぶ元校庭で、締めの餅まきが行われるというので慌てて向かうと、大きなビニールいっぱいに餅を抱えた大勢の参加者の喜色満面の姿の背に、やぐらから落ちる最後の餅が見えました。しょんぼりする私たちには、焼きたての芋が振る舞われました。

 こんな場所に祭りの日だけでなく、年中立ち寄れる食堂でもあればと思っていたら、2年前に「ヒストリア」(歴史)という名のイタリアンレストランも建っていました。それも自家菜園や小さな宿泊所、交流のための田んぼもある森の中です。成田のイメージまで変わるような一日でした。

 


多古町旬の味産直センター代表の高橋清さん。庭先も開放し、きのこ汁と田舎まんじゅうを振る舞う


つきたての餅を大根おろしで。無農薬のユズやネギも販売


着物姿の女性たちが、お抹茶と和菓子を振る舞う佐藤久子さん宅



島村 菜津(しまむら なつ)
 ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。