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今月の特集 (2019年4月)      

地方創生のヒント


~イタリアで急速に育っているオーガニックの村~

 イタリアでは、2016年は有機ブームの年と呼ばれ、有機の耕作地が前年比14%も伸び、2012年から2016年まででほぼ倍増しています。そして、経済難にもかかわらず、有機食品の販売率も11%の伸びを示し、地方にも町が全面的にバックアップして、環境保全型の農業と流通、小売りを育て、食育にも力を入れようというオーガニックの村連合(Citta di Bio)が急速に増え、今や183の自治体が加盟しています。

 ロンドンとブラジル、オリンピック開催地の選手村では、選手たちにできるだけ環境に配慮した食品を提供しようという指針も定まる中、日本では、そこに供給する国産のオーガニック食材が圧倒的に足りないと焦っています。

 さて、そのオーガニックの村連合の一つ、アドリア海側のマルケ州にあるイゾラ・デル・ピアーノには、約50軒の有機農家がいるそうです。

 マルケ州は農業が盛んで、国全体では日本と同じで人口に占める農家の割合は4%に満たないイタリアですが、マルケ州は約1割が農業を営み、約3割が農業に関わる仕事をしています。

 イゾラ・デル・ピアーノは、ルネサンス期の画家・建築家のラファエロの生地ウルビーノから車で約20分の丘陵地帯にある人口600人の村。1974年、廃虚だった修道院を修復し、若者たちが有機農業を始めたことで知られています。中心となったジーノ・ジロロモーニは、農薬と化学肥料で土を疲弊させ、虫や微生物まで殺してしまう農業の変化に疑問を抱き、1977年、オーガニック小麦の組合「アルチェ・ネーロ」を設立。ジーノがつくり上げたアルチェ・ネーロのブランドは、仲間との分裂から人手に渡りますが、1996年には、AMAB(地中海有機農業協会)を設立、約80の有機農家と提携し、さまざまな加工品も作り、13000人の会員を抱えています。

 少しずつ森や不耕作地を買い足して350haにし、自宅を兼ねる修道院では農家民宿を営み、丘にはエコ建築のパスタ工場を建て、村に活気を与えました。

 しかし、2013年の春、ジーノは書斎で心不全に倒れ、帰らぬ人となりました。生前は「食はただの栄養補給ではなく、文化であり、環境であり、美意識であり、生命そのものだ」、また有機農業とは「私たちの命を根底から支える農業というものの真価を忘れかけた人々に、その価値をもう一度伝え、人類の生き延びる道を模索する最良の手段だ」と熱く語ってくれました。夏、古代小麦が金色に実る頃、ここを訪れると、ジーノが農業に託したものが一目で分かります。刻々と姿を変える夕景の丘を眺めながら、農家レストランで食事をすれば、理屈抜きに彼の言葉を納得することができます。

 日本にも、こんな食のパワースポットがあちこちにできれば、地方は楽しくなります。今はジーノの子どもたちが後を継いでいます。組合の製品は日本でも買えますが、イタリアは田舎が最高という方には、お勧めの場所の一つです。

 

 

民宿の古代小麦畑に立つ故ジーノ・ジロロモーニ。
組合が目指すのは、地中海の有機農業をつなぎ、宗教対立の壁を超える平和と環境づくり



 

農場では在来牛を放牧し、堆肥をつくり、土作りをする循環型の農業を大切にしている

 

高台に立つ農家レストランからなだらかな丘の絶景が楽しめる。晴れた日には、希代の詐欺師として名が広まったカリオストロが幽閉されていたサン・レオ町の塔も遠くに見える



島村 菜津(しまむら なつ)
 ノンフィクション作家。1963年生まれ。東京芸術大学美術学部イタリア美術史卒。イタリアでの留学経験をもとに『スローフードな人生』(新潮社)を上梓、日本にスローフードの考えを紹介する。『スローな未来へ』(小学館)『そろそろスローフード』(大月書店)『スローシティー』(光文社)など著書多数。新刊に共著の『ジョージアのクヴェヴリワインと食文化』(誠文堂新光社)。